天気連動型の需要予測で発注から人員配置や広告を最適化するには

小売の現場で「天気のせいで売れた/売れなかった」は日常です。
ただ、天気は言い訳にもなりやすく、次の一手(価格・売場・在庫)に変換できないまま終わることも多いです。
本記事は、店長/販促の目線で 「天気×需要予測」を“意思決定”に変えるための最短ルートを整理します。
ポイントは、モデルを作る前に「どの価格アクションを、どの単位で、いつ動かすか」を決め、現場で回る 価格最適化(ダイナミックプライシング) の入口を作ることです。
天気連動の需要予測は、精度を競う取り組みではなく 価格の判断を速く・ブレなくする ための仕組みです。最初は「当たる/当たらない」より、外したときも損を小さくするガードレールと、現場が回る運用を先に作ると、価格最適化が定着しやすくなります。
目次
1. なぜ「天気×価格」が効くのか
天気は「来店」も「買うカテゴリ」も動かします。
そして価格は、同じ来店客に対して「買う/買わない」「何点買うか」「粗利を残すか」を動かします。
この2つをつなぐと、たとえば以下のような 意思決定が“勘” から外れます。
- 雨の日は来店が落ちる前提で、客単価が伸びるカテゴリの価格を守る(むやみに値引きしない)
- 猛暑日は需要が急増しやすいカテゴリで、値引きを抑えて欠品リスクと粗利を守る
- 気温急変が読めるときは、前倒しで価格・売場の準備をして機会損失を減らす
1.1 天気は「季節性」だけではない
「夏は冷たいものが売れる」だけなら季節で説明できます。
現場で厄介なのは、
- 最高気温が同じでも、前日比で体感が変わる
- 降水の有無で来店が変わる
- 風・湿度・日照で売れるカテゴリが微妙にズレる
といった 当日の変動 です。
この当日変動を拾えると、価格調整を「毎回」ではなく「必要なときだけ」打てるようになります。
2. 予測のゴールは「精度」ではなく「意思決定」
需要予測に取り組むと、精度(誤差)に意識が寄りがちです。
ただ、小売の店長/販促にとって重要なのは「予測値」そのものより、予測を根拠に何を変えるかです。
ここが曖昧だと、
- 予測は当たっても価格が動かない
- 価格が動いても、粗利が崩れる/現場負荷が増える
- 外したときの損失が大きく、次から使われない
という形で失敗しやすい。
2.1 予測する対象を“分解”しておく
今回の目的変数は売上金額ですが、意思決定を作るには、最低限次の分解が必要です。
2.2 価格アクションを先に定義する
価格アクションは、曖昧にすると運用で崩れます。最初に「どれを動かすか」を決めておきます。
- 対象 天気影響が強いカテゴリ(例:飲料、惣菜、鍋物、アイス)
- タイミング 前日夕方/当日朝/昼の更新、など固定する
- 選択肢 値下げ/据え置き/値上げ(必ず3択にする必要はない)
- 幅 1回の変更幅は小さく(現場負荷と顧客反応を守る)
- 例外 欠品見込み・入荷遅延など、手動介入条件を決める
予測値をそのまま価格に変換しようとすると、外したときに事故ります。先に 守るべき制約(下限粗利・変更頻度・例外) を決め、予測は「迷う領域」だけを支援する形にすると定着します。
3. 最短で揃える設計チェックリスト
「データが整ってからやろう」と考えると、永遠に始まりません。
重要なのは、最初のPoCで勝ち筋が見えるだけの 最小データ を揃えることです。
3.1 必要なPOS
- 日次(できれば時間帯)× 店舗 × カテゴリの売上金額
- 価格(通常価格/実売価格のどちらを使うか)
- 可能なら:客数、点数、値引き率(後で原因分解に効きます)
3.2 天気側はまずは「効く変数」から
天気データは、最初から全部は不要です。まずは、需要の変動に効きやすいものから。
3.3 “やりがちミス”を先に潰す
- 粒度不一致:日次売上に対して時間ごとの天気を混ぜるとノイズが増える
- 欠損:天気欠損日は「欠損フラグ」を入れる(埋めるより安全なことが多い)
- 店舗イベント:改装・休業・大型催事は別扱い(モデルが混乱します)
4. PoCの実装ステップは、軽く始めて強くする
ここからが実装です。最初のPoCは、最先端モデルより 比較と検証 が勝ちます。
4.1 まずベースラインに勝てるか
需要予測の最初の比較対象は、だいたい次の2つです。
- 前年同週(同じ曜日/祝日)
- 直近平均(移動平均)
天気を入れたモデルが、これに勝てないなら「天気の効きが弱いカテゴリ」か「粒度設計の問題」の可能性が高い。
4.2 天気特徴量の作り方
店長/販促の意思決定に効きやすいのは、次のような特徴量です。
4.3 検証設計:時系列分割とリーケージ回避
未来情報が混ざる(リーケージ)と、PoCは一瞬で壊れます。最低限、
- 学習は過去、評価は未来(時系列で分ける)
- 当日売上が確定してからしか取れない情報を、予測に使わない
を守ります。
5. 予測→価格に落とす:現場が回るルール設計
需要予測ができても、価格が運用できなければ意味がありません。
ここでは、現場が回ることを優先した「ルール×予測」の設計に落とします。
5.1 予測値をそのまま使わない:まずは“判断”に変換する
例として「明日の売上が平常より大きく上振れそう」という予測が出たとします。
このとき、価格判断は次のように 安全柵(ガードレール) を通して決めます。
- ガードレール1 下限粗利(率/額)を割らない
- ガードレール2 価格変更は1日N回まで(現場が回る回数)
- ガードレール3 例外(入荷遅延/欠品見込み)は手動優先
- 判断ロジック 上振れ予測なら「値引きしない/戻す」を優先、下振れ予測なら「限定カテゴリだけ小さく調整」
5.2 KPIは2段で持つ(売上/粗利 と、欠品・ロス)
価格を動かすなら、見るべきKPIはセットです。
5.3 小さく試す運用:勝ち筋の作り方
最初から全カテゴリ・全店舗で回すと、ほぼ失敗します。おすすめは「1カテゴリ×数店舗×固定の判断タイミング」で、まず“回る形”を作ることです。
- 対象カテゴリ:天気影響が強く、価格を動かしても炎上しにくいもの
- 対象店舗:立地が近い店舗(比較しやすい)
- 判断タイミング:前日夕方に1回、など固定
6. よくある失敗と回避策
最後に、天気連動の需要予測が“刺さらない”典型をまとめます。
6.1 天気を入れたのに改善しない(カテゴリ選定と粒度の問題)
- 天気影響の弱いカテゴリから始めている
- 日次だけで見ていて、雨の「夕方だけ」影響などが潰れている
- 店舗差(駅前/住宅地/車移動)を混ぜてしまっている
回避策はシンプルで、
- 天気影響が強いカテゴリに絞る
- 時間帯 or 曜日単位で最初から比較する
- 店舗は少数から始めて差を理解してから広げる
6.2 値引きしすぎて粗利が崩れる
天気予報は外れます。外れたときに損失が大きい設計(値引き幅が大きい、変更回数が多い、対象が広い)だと、現場が一度で懲ります。
回避策は、
- 変更幅を小さく
- 対象を狭く
- 下限粗利のガードレール
で 「外しても致命傷にならない」 運用にすることです。
7. まとめ:最短2週間のロードマップ
最後に、最短2週間で“回る形”を作るロードマップです。
「需要予測を作る」こと自体がゴールになると、現場は動きません。
価格判断が速くなり、粗利と欠品の両方を守れるところまで落とすと、初めて業務価値になります。
Author
nakasi0210